ソメイヨシノが花を散らし始めた四月の、とある晴れた日に、口縄坂に行ってみることにした。松屋町筋を南に下り、下寺交差点の歩道橋を渡ってさらに南を目指す。このコースは散歩道の一つで、学園坂を上って谷町筋の夕陽丘に出る。それから谷九、谷六と北上して帰ってくるルートである。その日は学園坂の登り口を通り越して口縄坂まで行った。口縄坂の細い入口に立つと、夕陽丘の高台を目指してうねるような坂道と階段が続いている。坂道が階段に変わる少し手前に、見事なしだれ桜が満開の花を咲かせていた。

生活路地として口縄坂を利用している人たちも、しばし立ち止まって仰ぎ見ていた。 実はこの道、40年も昔の話になるが通学路として通っていたのだ。天満橋に住んでいた頃、日本橋5丁目にあった学校に通う際、最短の道順を探った結果、夕陽丘から口縄坂を下って行くのが、最短・最安のルートであることを発見したのだ。ただ、若者にとってはあまりにも夕陽丘の駅は寂しい感じがしたし、この通学路も悲しいくらいに暗く寂しかったので、通学路として通ることは長続きはしなかった。
ところで口縄とは蛇のことを指すらしい。下から仰ぎ見た坂道が蛇のようにくねっていたから、その名前が付けられたと言うことだ。この辺りは台地が急に落ち込む切り通しになっていて、そこら中に坂道がある。そのいずれもが蛇のようにくねっているのだ。正直もっとくねっている坂もある。造られた時代が、坂それぞれに違うせいもあるのだろうが、もっと美しい名前にならなかったのだろうか。

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