口縄坂を上ったその足で、生国魂神社辺りを回って帰ることにした。一旦谷町筋まで出て、学園坂をやり過ごして次の路地を左に入った。この辺りは生玉寺町で、道の両側にずらりとお寺が並んでいる。人通りのほとんどない静かな町だ。ふと東の空を見上げると奇妙なものが目に入った。角のようにそそり立つ2本の塔の下に「燈台教会」とある。方向から言えば谷町筋に面した辺りか。散歩している時はまったく気付かなかった。

あんまり上を向いて歩くことはないので、気付かないのは当たり前なんだろうけど…。気になったのでネットで調べてみた。正式には「韓国メソジスト教団大阪燈台キリスト教会」と言うらしい。場所も谷町筋ではなく生玉寺町の真ん中辺りに位置している。大阪の仏教界に殴り込みをかけたような立地の上に、周囲の空気を読めない物々しい建造物である。界隈の寺社と摩擦無くやっているのだろうか。

そんなことを心配しながら、塀越しに見える寺院の庭木の枝振りが面白かったので写真に撮ったり、昭和の面影の色濃い町屋を撮ったりして生国魂神社まで帰ってきた。境内に入ることなく素通りして、緩やかな坂の先の千日前通りに出ようとした。そして何気に右手を見ると、アジア感に溢れたビルが目に入った。外階段は物干し場と化し、その階段の入り口がビルの入り口になっているのか、「迎賓閣ビル」の表示があった。竹を模したモルタル装飾とガラスブロックの組み合わせは毒々しさすら漂わせている。何か意図するものがあるのだろうか、素人仕事のようにも見える。

この階段は非常階段なのだろう。それがビルの入り口となっている。型破りだ。何かの事情で裏口を正面玄関にするしかなかった雰囲気がある。それから、6階か7階建てのビルにも関わらず、エレベーターのある感じが全くしない。歩いて上がるにはキツイだろう。かつて香港の九龍に林立していた廃墟のようなビル群を思い出した。 それにしても迎賓閣という名前はどこから来たんだろう。単なるアパートではない。といって、レストランか何かがあったような形跡もない。オフィスビルの名前にしては奇妙だ。こんなところにも摩訶不思議なビルがあった。

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