デンパサールとクタビーチで明らかになった、日本人なのにインドネシア顔、の男。

ワタシはデンパサールには幾度となく来ている。言うなれば経験豊富な旅行者である。初めてバリを訪れる友人を伴っているわけだから、当然ワタシがリードして歩かなければならない。歩き方にも自ずと責任感がにじみ出てくる。まずはガジャマダ通りから少し入ったデンパサール市場に入った。鉄筋コンクリート3階建ての市場は薄汚れた外壁と薄暗い照明、生ゴミの臭いに包まれた、普通の観光客は出入りしない場所である。市場に入ると、さっそく男が寄って来た。「ナニ、欲しいデスカ、ナニ探してマスカ」。「写真を撮りに来ただけだから…」とあしらいながら友人に目をやると、一人パチパチと写真を撮っている。なぜか近づく呼び込みは一人としていない。「Tシャツ、スゴク安いヨ」「ワタシ日本語、勉強中デス、喋るダケネ」と追いすがってくる男や女を無視して市場の中を上へ下へ歩き回った。

声をかけられるのはほとんどワタシで、友人に声をかけることはなかった。さすがに商売人、どちらがリーダーかよく分かっていて押さえどころはきっちり掴んでいるのだ。などと妙な感心をしたりした。
デンパサールからの帰り、クタビーチに寄ってみることにした。バリに来た以上クタのビーチを見せないわけにはいかない。バクンサリ通りを抜けて砂浜に足を入れると、すぐさま物売りたちが束になってかかってきた。「テレマカシ」と軽くいなしながら木陰に腰を落ち着けると、今度は「マッサジ、マッサジ」とオバはんが寄ってきた。ここでも友人に近寄る物売りはなく、一人ビーチに向かってシャッターを切っていた。 しばらくビーチで写真を撮っていると、3人の物売り女が近づいてきた。一人の女がワタシの顔をしげしげと見つめた後「あっ、ワタシ、アナタ知ってる」という。

「ウソじゃないヨ、一年前にココデ見た」。確かに一年前もこのビーチで写真を撮ってたけど、覚えてないなー。「ダカラ、アナタ、コレ買わないか」と、Tシャツを差し出した。おいおい、そういうことか。あやうく信じるところだったよ。「アナタ見たのウソじゃない、ワタシ、ウソ言わない」などと喋っていると、写真を撮り終えた友人が帰ってきた。友人を見るなり女は「アレーッ、あの人モ、ニッポンジンか」と聞いた。「もちろん」と答えると「ウソ!、じぇったい、ニッポンジンじゃない!」と否定した。何をバカなことを言ってるんだと笑っていると、さらに「オトサンも、オカサンも、ニッポンジンか」と聞いてくる。

「当たり前だろ、本人に直接聞けよ」。と言いながら、その日一日、どうして物売りが友人に近づかないのかやっと分かったような気がした。ワタシを案内しているバリ人ガイドと思われていたのだ。なるほど、確かにこの島の男たちに似ている。地黒なうえに、こっちに来てさらに黒くもなっている。そうだったのか。そして、物売りの女は意を決したように友人に近づき、こう言った。
「アノ人、一年前からの知り合いで、トモダチ。ダカラ、アタナも、トモダチ。安くするヨ、全部デ千円!」。こら、こら。

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