そぼ降る雨の中、この島でもうひとつの神の棲み家、バトゥカウ山へ向かった

たどり着いたのは行き止まりの広場。
そこで見たものは
鶏を入れたたくさんの竹篭と一人の男、
そして自慢の鶏だった。
近くでで遊ぶ子供たちは
闘鶏用に育てられた鶏が怖いのか
それとも異邦人に慣れていないのか
遠目に男と私を見ているだけだった。

デンパサールはププタン広場の近く、ガジャマダ通りから入ったところ、細い路地が折れ曲がって行き止まったところにその広場はあった。広場にはところ狭しと竹の篭が並べられ、男が一人、ぽつりと座っていた。篭の中には鶏がいた。時々甲高い鳴き声を出した。耳が痛い。写真を撮り始めると男がのそっと立ち上がって近づいてきた。怒られるのかと思い身を固くしていると、やにわに篭から一羽を取り出して胸に抱え、カメラの前に座った。さかんに喋りかけてくるのだが言葉が分からない。どうやら鶏は闘鶏用に育てたものらしく、一緒に写真に収まりたいようだった。
男が抱えた鶏は体も大きく姿もいい。数ある鶏の中でも自慢の一羽なのだろう。頭の先から爪の先までこと細かに説明をしているようだった。意味が分からないまま、時折感心したような表情をつくりながら相づちを打った。そうでもしないと写真を撮らせてもらえない勢いだった。
鶏は男とその家族の暮らしを支えるべく勝ち続けてきたのだろうか。それとも久しぶりにこの男に勝利を運んできたばかりの幸運の鶏なのだろうか。それにしても男の顔は晴れがましい。宝物でも扱うようにカメラの前でやさしく鶏の背中をさすっている。鶏も気持ちがいいのか身動きしない。
陽射しが長い影を落とす遅い午後、路地裏の広場は男の誇りと鶏の勲さにあふれ、ゆるぎのない幸福感に満ちていた。

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