タイの空気感「ホアヒンを行く」

三輪タクシーがメインストリートを疾走するホアヒン・グランプリ

バリ島ではとっくの昔に見かけなくなった三輪タクシー(トゥクトゥク)が、ホアヒンではトランスポートの主役をはっている。ホテル前でそのトゥクトゥクを拾う。乗り込むなり、すざましいエンジンを響かせてトゥクトゥクは走った。ホアヒンのメインストリートを車体を震わせながら走った。町に一つだけある信号で待ってると、となりに巨漢白人オバハン3人を乗せたトゥクトゥクが並んできた。向こうのドライバーがちらりとこちらのドライバーを見た。にやりと笑った。勝負する気なのだ。
信号が青に変わる。ダッシュ一発、素早くアクセルをつなぐ我がトゥクトゥク号が一歩先んじる。負けじと巨漢オバハン号も、床にめり込めとばかりにアクセルを踏み込んでくる。つかの間のホアヒン・グランプリが始まったのだ。勝者への賞賛もトロフィーもないけれど、後塵を拝したトゥクトゥクが真っ黒の排気ガスを浴びることになるからか、どちらも必死だ。両足を踏ん張りながら「にいちゃん、負けんなよ!」と心で叫ぶ。

2台のトゥクトゥク・ドライバーは、サイドバイサイドのカーレーサーの形相でハンドルを握りしめる。「後ろのタイヤへちゃげてますよ」の巨漢オバハン号は、案の定、重量ハンディのため徐々に遅れ始める。「オッシャー!このままぶっちぎれーっ」。我が運ちゃんともども満面の笑みを巨漢オバハン号の運ちゃんに送る。「ハ、ハ、ハッ、お先に。あ、それからおっさん、客の顔が固まってるし…」。

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