タイの空気感「ホアヒンを行く」

ホアヒンはここから始まった。マルカッタイヤワン宮殿、夢のあと

ホテルの前で客待ちをしているトゥクトゥクに声をかけた。カミさんを助手席に乗せた30代の運転手だった。何のために?と思わないでもないが、ダンナはお客との交渉ごとが下手で、しっかり者のカミさんを頼りにしているのかも知れない。確かにホアヒンではそんなトゥクトゥクをよく見かける。中には子供まで乗せて、家族全員でトゥクトゥクで商売という強者までいる。
マルカッタイヤワン宮殿は1923年にタイ国王ラマ6世によって建てられた避暑用の宮殿だ。ホアヒンからチャームへ向かう幹線道路を左に折れて、軍の施設を抜けたところ、美しい木立の中にあった。

もともとホアヒンは、マルカッタイヤワン宮殿の建設によってタイで初めてのリゾートとして認知されるようになったらしいが、この夏宮殿、まさに王族のリゾートにふさわしいロケーションとコロニアル風の建築様式には圧倒される思いだった。とは言え、いまや国王の訪問もないまま、観光名所としての存在でしかなく、年老いた下足番と傷んだところを修理する大工が幾人かいるだけだ。庭園はかつての栄華を失い、人の住まない居住空間は寒々とした空気に晒されていた。訪れる人も少なく、写真を撮るには好都合ではあったが、打ち捨てられたものが持つわびしさにも包まれていた。

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