タイの空気感「ホアヒンを行く」

カオ・サムローイ・ヨーとはホアヒンから南へ約60キロのところにある国立公園だ。観光パンフレットには「山と海を存分に楽しめる場所」とある。日本の「国立公園」とか「国定公園」のようなものかと思っていたら、遮断機のあるゲートが一般道に設置されていて、なぜか外国人観光客は入園料を徴収される。公園内にはたくさんの人達が暮らしているし集落もあるから、ゲートの横を素通りしているのはそんな人たちなのだろう。当然入園料は払わないと思われる。

カオ・サムローイ・ヨーの目玉と言うべきプラヤ・ナコーン洞窟へは、まずボートに乗らなければならない。それも船着き場があるわけではなく、遠浅の砂浜をバシャバシャ歩かなければならない。靴とソックスを脱いで、ズボンの裾をまくって浅瀬に浮かぶボートに乗り込むのだ。波と風を切りながら岬を回ったボートは、その先の遠浅の浜に着く。靴とソックスとカメラとバッグを両手に抱えてボートを降りることになるのだが、足でも滑らせたら一巻の終わりだ。

遙かなるプラヤ・ナコーンへの旅

「海にハマる」という失態はなかったものの、肩からぶら下げたバッグの底をしっかりと海水に浸けてしまった。あーっ、財布が…、タオルが…、フィルムが…。
プラヤ・ナコーンは約200年前に発見された巨大な洞窟で、ラーマ5世も訪れたことのある由緒正しき景勝地である。なぜなら、天井の抜けた巨大なドーム状の空間には国王来訪を記念した社が建立され、奥の暗がりには小さいながらも霊験あらたかに見える品のいい仏像が安置されているのだ。そばには迷彩服の護衛兵まで静かに立っていたりして、こんなところにも国の威信を懸けているのかと思わないでもない。というより、仏像の盗難を心配しているのだろう。

そんなプラヤ・ナコーンに行き着くには、けっこうな山道を歩かねばならない。はっきり言って「山登り」に近い。ツアーの参加者にはヒールの高いサンダルなど履いている場違いな女もいた。香港からのツアー客の女どもはあまりのキツさに根を上げて、とっとと山を下りてしまう始末だ。
だいたいがリゾート地でのオプショナルが、ここまで過酷なものとは誰が想像できるだろう。ツアーを申し込んだときに説明はないし、ガイドブックにも詳しい案内などなかった。確かに行き着いた先の洞窟は素晴らしかったけど、そこへ至るまでの準備というか心構えというか、もう少し説明があっても良かったんじゃないのか。サンダル女や香港リタイヤ女たちに成り代わり、もの申す次第である。

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