前から帽子を買いたいと思っていたので、時おり帽子屋に入って、気になった帽子をかぶらせて貰ったりしていた。頭が小さいせいで、たいていの帽子は大きく、サイズのあるものは高くて、とても買えないものばかりだった。
その日は妻と映画を見た帰りだった。ショーウインドー越しに洋服とコーディネートされた帽子が見えたので、何気に足を踏み入れた。店構えから見てカジュアルな、おおむね高価なものは置いていない感じの店だった。帽子は何種類か置いていて、最初に手にした帽子の値段は「これなら買える」ものだった。その勢いでコーディネートされている中折れ帽をかぶると、「似合ってる」と妻が言った。私自身もまんざらではなかった。

ただ少しだけ大きい感じがして店員に小さいサイズはないかと聞くと、黒はあるけど茶はないということだった。茶が気に入っていたのだ。ブカブカという分けではないし、とにかく気に入ってしまってるし、妻も「いいよ」と言うしで、つい「これにします」と言った。
「はい、税込みで一万四千七百円です」と店員が答えた。「えーっ!」。今さら止めるとは言えないし、ま、気に入ったのだからと(しぶしぶ)お金を払った。最初に手に取った帽子は五千円くらいだったから、そんなもんかなと勝手に思っていたのだ。これまでの人生で一番高価な帽子の買い物だった。

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